英語学習で「発音」が重要と言われるのはなぜか？
英語学習ではよく「発音が大事」「まず発音から」と言われます。単なる根性論や精神論ではなく、 実はこれは脳の記憶の仕組みや言語の処理の順番と深く関係しています。 「発音を知っている単語ほど覚えやすい」「口に出したフレーズは忘れにくい」と感じるのは、偶然ではありません。
この記事では、英語の発音がなぜそれほど重要なのか、そしてなぜ発音を意識すると単語やフレーズが覚えやすくなるのかを、 できるだけ専門用語に頼らず、分かりやすく解説します。
記憶は「文字」よりも「音」と結びつきやすい
私たちが言葉を覚えるとき、脳は情報をいくつかの形で保存します。その中でも特に強いのが音（聴覚情報）です。 単語を覚えるとき、私たちは綴り（スペル）だけでなく、「その単語がどんな音で発音されるか」という情報も一緒に記憶しています。
たとえば、日本語でも「見たことはあるけれど、読み方が分からない漢字」は、どうしても記憶に残りにくいと感じないでしょうか。 英語も同じで、発音が分からない単語は、脳内で“音のイメージ”が作れず、記憶のフックが弱くなるのです。
逆に、発音を知っていれば、文字を見たときに頭の中で音を再生できます。 視覚（スペル）と聴覚（音）がリンクすることで、記憶はぐっと安定します。
「口を動かす」と記憶が強くなる──運動記憶の力
発音練習では、口・舌・唇・喉など、顔まわりの筋肉をたくさん使います。 このとき働いているのが運動記憶です。自転車や楽器の弾き方を体が覚えるのと同じように、 英語の音も「口の動かし方」とセットで記憶されていきます。
つまり、単語を「黙読だけで覚える」ときよりも、 声に出して読むほうが、関わる感覚（視覚＋聴覚＋運動）が増えるぶん、記憶に残りやすくなるということです。
英単語帳を眺めているだけではなかなか覚えられないのに、 音読やシャドーイングをするとスッと定着するのは、この「マルチモーダルな記憶」が働いているからです。
発音を知ると「英語の音のパターン」が見えてくる
英語は、スペルと発音の対応が一見バラバラに見えますが、 実は多くの音のパターンがあります。
-tionは /ʃən/（ション）と読むことが多い：nation, station, action などphは /f/ の音になる：phone, photo, philosophy などthは /θ/ または /ð/：think, this, that など
こうしたパターンは、頭の中で「音」を意識していないと、なかなか見えてきません。 発音を勉強していると、
- 初めて見る単語でも、「たぶんこんな音だろう」と予測できる
- 似た発音の単語同士が、まとめて記憶されていく
といった形で、語彙が芋づる式に増えやすくなります。 発音は「単語の覚え方そのものの効率」を底上げしてくれる要素だと考えてよいでしょう。
発音を知らないと「綴りだけの単語」になってしまう
発音を知らない単語は、頭の中で「文字の列」としてしか存在しません。 たとえば、subtle という単語を初めて見たとき、 発音を知らないと「サブトレ？ スブトル？」のように、どこか曖昧なイメージになります。
本当の発音は /sʌtl/（サトルに近い音）で、b は発音しません。 一度正しい発音を知ると、
- 音のかたまりとして「サトル」と覚えられる
- その音に対応する綴りが
subtleだと結びつく
という流れで、記憶が安定します。 これは極端な例ですが、音と綴りがつながっていない単語ほど、忘れやすいというのは多くの学習者が感じるところだと思います。
英語は本来「音から理解する」言語
ネイティブスピーカーは、英語を聞くとき 「音 → 意味 → 場面」という順番で処理しています。 一方、日本の英語教育では、どうしても 「文字 → 日本語訳 → 意味」 という流れになりがちです。
発音を意識して学習を進めると、徐々に
- 聞いた音から直接イメージが浮かぶ
- 英語の語順のまま意味を取れるようになる
といった変化が起きます。 これは、リスニングだけでなく、リーディングやスピーキングにも良い影響があります。 音が頭に入っていると、英文を読むときにも頭の中で自然に音読されるため、 読むスピードが上がり、意味の理解もスムーズになります。
発音を鍛えると英語力全体がつながる
発音というと「通じるため」「カッコよく話すため」といったイメージを持たれがちですが、 実際にはもっと広い意味で、英語力全体の土台になっています。
- 単語・フレーズの記憶が安定する（語彙力）
- 聞き取れる音が増える（リスニング）
- 英語の語順で話しやすくなる（スピーキング）
- 頭の中で音読されることで、読むスピードが上がる（リーディング）
このように、発音は「発音のためだけのスキル」ではなく、 すべての技能をつなぐハブのような役割を担っています。
今日からできる、シンプルな発音重視の学び方
最後に、難しいトレーニングではなく、今日からすぐにできるシンプルな発音重視の勉強法をいくつか挙げます。
- 新しい単語を覚えるときは、必ず辞書アプリなどで発音を確認する
- 意味とスペルだけでなく、「自分の口で3回声に出す」までを1セットにする
- フレーズ集や例文を、黙読ではなく「音読」するのを基本にする
- リスニング教材で気に入ったフレーズを、そのまま真似して口に出す（シャドーイング）
特別なことをしなくても、「読むときは必ず発音を伴わせる」という意識を持つだけで、 単語やフレーズの定着率は目に見えて変わってきます。
まとめ：発音を知ると、英語は一気に覚えやすくなる
英語学習において発音が重要だと言われるのは、
- 記憶は「音」と強く結びついているから
- 口や舌を動かすことで運動記憶も使えるから
- 音のパターンが見えるようになり、語彙が芋づる式に増えるから
- 英語本来の「音から理解する」処理に近づけるから
- 語彙・リスニング・スピーキング・リーディングをまとめて底上げできるから
という、はっきりした理由があるからです。
もしこれまで「発音はあとでいい」「とりあえず単語だけ暗記しよう」と考えていたなら、 学習の序盤から発音に少し時間を割いてみてください。 同じ時間勉強していても、覚えやすさ・忘れにくさ・英語の伸び方が大きく変わってくるはずです。
コメント